コラムサルコペニア

2024.03.04更新

サルコペニアの超早期発見と運動対策

サルコペニアとは加齢に伴う筋力あるいは筋肉量の減少を指す言葉です。この状態を放置しておくと、寝たきりや認知症になる恐れが高いですので、早期発見による予防が大切となります。最近ではコロナ禍の影響により、外出する機会が減ったことで40代ぐらいの若い世代にも増えていると言われています。決して、高齢者だけの病態ではありませんので、油断してはいけません。

早期発見は“股関節の痛み”

筋力低下が股関節に負担をかける
股関節は、日常的な動作のほとんどに関係する大切な関節です。歩くこと、階段を上り下りすること、イスから立ったり座ったりすることは、股関節が可動することで円滑に行えるのです。
ゴルフや野球などのスイングをする場合も、腰の動きをスムースに行うためには、基本となるのは股関節です。また、股関節が傷んでいると、腰に負担がかかり腰痛の原因にもなります。しかし、この股関節は加齢とともに動きが悪くなっていきます。その理由は、次の二つが考えられます。

①股関節周辺の筋肉が硬くなる
②股関節を支える筋肉が弱る

この結果、股関節にかかる負担が大きくなり、日常の動作や歩行に支障を来すようになります。そして、筋力低下が目立ってきますと、更に股関節に痛みを感じるようになります。若いときは、筋肉が股関節をしっかりサポートしてくれるので、仮に股関節が多少傷んでいてもあまり影響は出ませんが、ある程度の年齢になると、運動不足も加わって筋力が弱まってくるので、歩いているときに足がふらつくようになります。歩行を安定させるために股関節で支えようと負担をかけてしまい、次第に痛みが発生してくるのです。また、年齢を重ねると、どうしても大腿骨の骨密度が低下し脆くなってきますので、歩き方にもブレが生じ、更に股関節に悪影響を及ぼします。その結果、違和感や痛みが現れやすくなるのです。なんとか我慢できるうちはよくても、限界に達すると歩けなくなってきます。深刻化すると最悪の場合、人工関節に交換する手術を受けざるをえなくなることもあります。この状態を脱するためには、股関節周囲の筋力をアップするほかありません。股関節を支えている筋にはアウターマッスル(表層筋)とインナーマッスル(深層筋)があります。アウターマッスルには股関節を外転する筋と内転する筋、そして伸展する筋があります。外転筋は、股関節を外側に開く、つまり、足を開くための筋肉です。お尻の中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋などがそれに当たります。一方、内転筋は、股関節を内側に閉じる(足を閉じる)ための筋肉です。これには、大内転筋、短内転筋、長内転筋などが含まれます。従って股関節は、外転筋と内転筋を鍛えるだけでも、支える力をかなり補強することができます。そして、股関節を伸展する大殿筋、大腿二頭筋(いわゆるハムストリング)は股関節と大腿をしっかり安定させる筋で、股関節のぐらつきを防止します。これらアウターマッスルの筋力低下は日常生活の中で自覚しやすいので、歩行、立ち上がりや階段の昇降に違和感を感じた時は、「8の字タオル体操」という運動法を皆さんにお勧めします。

「8の字タオル体操」のやり方

まずは、そのやり方を説明しましょう。用意する物は、バスタオル1枚だけです。
肩幅くらいに足を開いてイスに座ります。バスタオルをたてに折りたたんで、両ひざの近くで8の字になるように巻きつけます。

次にタオルが交差した部分を両手でしっかり握り。握ったこぶしを挟むように両ひざを内側へ思い切りギューッと3秒ほど押しつけます。その後、一度力を抜いてから、今度はタオルを握ったまま、外へ思い切りグーッと3秒ほど広げるようにします。この間は呼吸を止めず、有酸素で行います。内→外→内→外という動きを、30回くらいくり返し、これを1セットとして、朝昼晩とそれぞれ1セットずつ行うと効果的です。ちなみに、この体操は、やり過ぎはかえってよくありませんので、1セットで行うのは、せいぜい30回以内に留めておきましょう。

股関節への負担が軽減し痛みが改善する!

8の字タオル体操は、若年者だけでなく、ある程度の高齢のかたでも、楽にでき、有効に外転筋や内転筋を強化することができるのです。特に外転筋のうち、大腿筋膜張筋などは、なかなか鍛えにくいものですが、この8の字タオル体操なら、効果的に鍛えることができます。一方、伸展筋である大殿筋や大腿二頭筋は次に示すスクワットやブリッジという体操を根気よく続けることによって、筋力が増せば、歩いているときのブレが少なくなり、股関節への負担が軽減されてきます。股関節周囲の筋肉を鍛えることにより、股関節痛の予防や改善につながり、その結果、運動量が増え筋力が向上するという好循環になります。、股関節に違和感を覚えたならば、そのまま放置せず、まず8の字タオル体操を試みましょう。スクワットは道具もいらず、自宅で手軽にできる運動です。一日10回から20回を1セットとし、少なくても2セットは毎日し続けると一か月ほどで効果が表れます。

スクワット

足を腰幅に開き、つま先は膝と同じ向きにする
お尻を後ろへ突き出すように、股関節から折り曲げる
太ももが床と平行になるまで下ろしたら、ゆっくりと元の姿勢に戻る
1セット、10回程度、1日2セットを行います。もちろん有酸素で行います。

 膝がつま先よりも前に出ないよう注意します。負担が大きい時は椅子を利用しても良いです。

ヒップリフト

両腕は、身体の横で手のひらを下にして伸ばし、膝を曲げて仰向けに寝ます。
お尻(大殿筋)と太腿の後ろ(ハムストリングス)に力を入れて、腰を浮かせていきます。
肩から膝までが一直線になる位置まで腰を浮かせたら、その姿勢を5秒間キープします。この運動も有酸素で行います。
その後、大殿筋とハムストリングスに力を入れたまま、ゆっくりと腰を下ろしていきます。
お尻が床につく直前まで下ろしたら、再びそこから腰を浮かせていきます。
以上の動作を5~10回程度反復します。1日、午前・午後で2セット程度行います。
一方、インナーマッスル(深層筋)には股関節の外旋を担う深層外旋六筋というものがあります。骨盤の前面にある梨状筋、外閉鎖筋、後面にある大腿方形筋、内閉鎖筋、上双子筋、下双子筋があります。これらの深層外旋六筋が弱まると、歩行時の足の着地(片足)の際に「膝が内側に入る(内股)」(ニーイン・トゥーアウト)になり、膝を痛める結果を招きます。長距離を走るランナーの方の場合、膝の内側が痛くなる鵞足炎が有名です。その他に重要なのが腸腰筋です。腸腰筋は大腰筋と小腰筋、腸骨筋の3つから構成される筋肉であります。腰椎から骨盤、大腿骨にかけて付着する筋肉で、股関節を曲げたり背骨を安定させたりする働きがあります。腸腰筋の筋力が低下すると、体幹が不安定になり、姿勢が悪くなり腰痛が出やすくなることもあります。サルコペニアの初期には大腰筋が萎縮することが知られており、CT検査で診断することができます。インナーマッスルは従来の筋肉トレーニングで鍛えることが難しく、以下に示すようなトレーニング、あるいはピラティスが有効とされています。

レッグランジ 

腸腰筋、主に大腰筋のストレッチと筋力増強効果があります。
しゃがんだ状態から、膝は曲げたまま、足を前後に開きます。
後足の膝は床につけます。
前足に体重を乗せ、後足の股関節を伸ばします。
左右10回ずつ 一日2セット行います。

股関節を45〜60度程度曲げた横向きの姿勢.
お臍が真横を向くように(骨盤が回らないように)しましょう.
上側の股関節を開くようにして股関節の外旋運動を行います.
10回を2セット程度行います。注意点としては骨盤が動かないようにします。
骨盤が動いてしまうと、体幹の回旋運動が伴ってしまい,効果が十分に出ないようです。

執筆者紹介

みなと芝クリニック 名誉院長 川本 徹

1987年 筑波大学医学専門学群卒業
1993年 筑波大学大学院医学研究科修了 博士(医学)
1996年 筑波大学臨床医学系外科(消化器)講師
2003年 米国テキサス大学MDアンダーソン癌センター客員講師
2008年 東京女子医科大学消化器病センター外科非常勤講師
2010年5月より、 みなと芝クリニック 院長
2013年 東邦大学医学部医学科 客員講師
2022年10月 みなと芝クリニック名誉院長
2022年11月 犀星の杜クリニック六本木院長
専門分野 内科、整形外科、皮膚科
認定医・専門医 日本外科学会 認定医
日本消化器外科学会 認定医
日本消化器病学会認定消化器病専門医
日本抗加齢学会会員
その他の所属学会 米国臨床腫瘍学会 正会員
米国癌学会 正会員
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